屋久島の低地照葉樹林は生物多様性豊かな希少な森

屋久島照葉樹林ネットワーク

里の原生林・生物多様性の宝庫 屋久島の低地照葉樹林を次の世代に手渡すために

屋久島世界遺産地域科学委員会への要望書

                                2023年1月24日

屋久島低地照葉樹林保全世界自然遺産地域拡張を求める要望書

                         屋久照葉樹林ネットワーク 

                               代表 手塚賢至

 

 2023年、今年は屋久世界自然遺産登録から30周年の節目の年を迎えています。今こそ屋久島の誇るべき自然環境が世界遺産に登録された原点へ立ち戻り、改めて屋久島の世界遺産たる価値を再認識して持続的な発展のために改善すべき問題を明らかにし、解決へ向けて真剣な検討と行動が求められている時です。

 1993年の世界遺産登録時にIUCN(国際自然保護連合)は屋久島の登録に対する評価書において改善すべき点を指摘し勧告を行っています。

世界遺産推薦 IUCN評価 662:屋久島(日本)」において、3.「完全性」という観点から「改善すべき問題点を3つ挙げています。」

中でも3.1【境界】「複雑で屈曲した境界線によって分けられ、境界線の幅は1㎞に満たない部分さえある。~中略~いくつかの明らかな世界遺産の価値、たとえば老齢大木を中心とした原生林、優れた景観を有する地形や滝が、推薦地域に近接するものでさえ除外されている」つまり遺産地域エリアの幅が狭いという脆弱性と、併せて遺産地域に近接した原生的な森林が除外されていることが指摘されています。遺産地域エリアの幅の狭さは特に高標高山岳地域から東側へと連なる愛子岳から尾根上に伸びる垂直分布を指すことは明らかです。

 屋久島の低地照葉樹林、特に河川流域に辛うじて残されている原生的な照葉樹林においては植物種の多様性が極めて高く「種の保存法」に係る国内希少野生植物指定種や絶滅危惧種等の貴重植物が多産し、近年世界新種、国内新産種などの発見も相次ぐ極めて価値ある重要な森林であることが明らかになりました。屋久照葉樹林ネットワークが2016年から精力的に行ってきた島内各地域での植生調査や希少種調査によるデータを基に、2020年4月に『高い植物多様性を擁する屋久島の低地照葉樹林保全をもとめる要望書』を、「日本生態学会」・「日本植物分類学会」・「日本自然保護協会」との四団体同時に環境省(自然環境局長・九州地方環境事務所長)、林野庁(長官・九州森林管理局長)、鹿児島県(県知事)、屋久島町(町長)の四行政機関に提出しました。

 この要望書の趣旨と目的は、わずかに河川流域に残されている貴重な原生的照葉樹林であるにも関わらず、これまでこの森林生態系の価値が認識されないまま、近年様々な開発の影響により自然環境が脅かされている現況を直視し、早急な保護の手立てを施すことでこの貴重な森林生態系を未来に引き継ぐことを目的とし、特に保護上重要な照葉樹林として優先的な3流域(椨川流域、一湊川流域、花揚川・鳴子川流域)を示しました。

この東部一帯を端緒として尾根上の世界遺産登録地域を拡張して河川流域に残存する原生的な低地照葉樹林の保護指定を行うことでこの30年来の勧告は科学的な根拠を基にして合理的な解決へと導かれます。登録後30年を経た今も改善されずに放置されている現状を看過することなく、この世界遺産エリアの脆弱性を解決するための施策の提案として以下の4点を屋久世界遺産地域科学委員会に要望します。

 

  • 3流域を林野庁の保護林制度に係る「森林生態系保護地域」に編入すること。
  • 3流域において環境省種の保存法に係る「生息地等保護区」の指定に取り組むこと。
  • ①、②の判断を踏まえ屋久島の価値を最大限尊重し綿密な協議の上、特に椨川流域を筆頭として国立公園への編入を実現すること。
  • ①、②、③を経て現状の様々な保護指定エリアを再検討し、将来的には世界遺産登録地域の編入を、特に椨川流域を直近の実現課題としてロードマップを策定し進捗させること。

 

 2020年に提出された要望書は林野庁環境省屋久島町より真摯な内容の回答が寄せられています

今回の貴科学委員会への要望書は、環境省からの回答に「屋久世界遺産地域科学委員会の場を活用するなどして、当該地域の実効性のある保全策について関係行政機関とも連携して対応を協議していきたい」との意向が示されていることと、屋久島の低地照葉樹林保全が何故必要なのかとの問いと答えの中に30年前の勧告をクリアするための問題解決のへの道筋も同時に内包されていることを重視しています。

 屋久世界遺産地域科学委員会におかれては2020年提出の要望書を再度吟味され、この度の要望書と併せて該当地域の保護指定を通して世界遺産エリアの拡張が促されIUCN の勧告をも解決できることをご理解いただき世界自然遺産の重要課題と認識され早急な議論と検討を行い、要望内容に即して実現へ向けた決断をされるべく強く要望いたします。

 

 

                       屋久照葉樹林ネットワーク    

                        Tel/Fax:0997-44-2965

                      Email:yattaneyoca@gmail.com

               〒891-4203鹿児島県熊毛郡屋久島町一湊2418-38

 

Photo by じろう うちむろ