屋久島の低地照葉樹林は生物多様性豊かな希少な森

屋久島照葉樹林ネットワーク

里の原生林・生物多様性の宝庫 屋久島の低地照葉樹林を次の世代に手渡すために

屋久島低地照葉樹林の保全に関するセミナーと現地研修会

開催日      2023年2月27日(月)9:00~12:30 参加無料

場  所   セミナー:屋久島町役場本庁 委員会室

     現地研修:椨川流域、

主  催   屋久照葉樹林ネットワーク

共  催   屋久島学ソサエティ

[開催趣旨]

屋久島の集落に程近い低地の河川流域には林齢150年を超える里の原生林とも言える照葉樹林が残されています。近年この森林では世界新種や国内新産種の発見が相次ぎ、絶滅危惧種をはじめ希少植物が多く生育していることから生物多様性の宝庫として着目されています。同時にこの貴重な森林はほとんど保護のエリアに含まれておらず早急な保護の指定が望まれます。2020年4月「屋久照葉樹林ネットワーク」が長年調査研究を行い収集されたデータを基に「日本生態学会」「日本植物分類学会」「日本自然保護協会」の4団体より、環境省林野庁、鹿児島県、屋久島町保全に関する要望書が提出され、現在行政機関により保護林等の指定が検討されています。

今回のセミナーでは渓畔林の生態・保全、森林施業を専門分野とされてきた崎尾均さん(新潟大学名誉教授)を講師にお迎えして渓畔林の生態的な特色と保全の大切さを学び、合わせて椨川流域の現地フィールドワークを行います。今後、保護林指定(林野庁)や生息地等保護区指定(環境省)を踏まえ、将来的には国立公園、更には世界遺産登録地域の拡張といった目標も視野に入れ、様々な視点から屋久島の低地照葉樹林を後世に引き継ぐための学びの場となれば幸いです。

2月27日 

◇9:00~10:30

手塚 賢至(代表)・山下 大明(写真家)  

  • 「水辺林(渓畔林)の動態,生態的機能および保全・再生技術」:崎尾 均

◇10:30~12:30  現地研修:椨川流域 

タブガワムヨウランなど固有名称を冠する貴重種の多い椨川流域の照葉樹林を観察し、この森を後世に繋げるために専門家とともに保全と利用の持続的な可能性を学びます。

◎オプション:27日14:00~16:00引き続き現地研修として女川流域を視察します。

28日9:30~ 一湊川流域の自生地保全対策を現地にて検討

 

講師:崎尾均(さきおひとし)新潟大学名誉教授・Botanical Academy代表 屋久島学ソサエティ会員
大阪市出身.博士(理学),技術士(環境部門・森林部門).埼玉県農林総合研究センターを経て,2008年に新潟大学農学部(演習林)に着任,2019年に佐渡自然共生科学センター長に就任.これまで水辺林の生態・保全・管理などに関する研究を中心に行なってきた.また,佐渡島屋久島,秩父,只見,富士山において森林の生態や樹木の生活史に関わる研究にも従事した.2021年に新潟大学を退職後,BotanicalAcademyを設立して,セミナーや講義で森林や樹木に関する情報発信を行なっている.

 

<問い合せ>屋久照葉樹林ネットワーク事務局 手塚田津子/電話:0997-44-2965/E-mail:yattaneyoca@gmail.com

 

セミナー①要旨 開催趣旨に同じ

セミナー②要旨

水辺林(渓畔林)の動態,生態的機能および保全・再生技術

 

崎尾均(新潟大学佐渡自然共生科学センター・フェロー,Botanical Academy代表)

 

河川,渓流,湿地周辺には,周囲と異なった独特の樹種構成をもった森林植生が発達している.これらの森林(河畔林・渓畔林・湿地林)は,総称して水辺林と呼ばれている.

近年の土地利用の高度化と開発は多くの水辺林を破壊する一方で,帰化植物の繁殖場所を増やし,そこを生息地とする在来の生物を絶滅に追いやってきた.河川はコンクリート護岸によって巨大な放水路と化しており,上流域では砂防・治山工事によっても水辺林が失われ,緑化樹種・植生の導入により自然植生に悪影響を及ぼしている.

日本では梅雨や台風による集中豪雨によって頻繁に洪水が生じている.水辺林はこれらの洪水による攪乱と密接な相互作用をもって更新している.洪水によって水辺林は破壊される一方,新たな砂礫地などが出現する.水辺周辺では,様々な土壌や水分条件が混ざり合って複雑な立地環境がモザイク状に微地形を形成している.これらの立地には,その環境に適応した植物が侵入し,そこで稚樹が定着し成長を始める.このように,水辺林の樹木は,生活史を通して水辺域の攪乱に適応して,種多様性の高い個体群を維持していく.

水辺林は樹冠による日射遮断や水質形成などの生態的機能を持つとともに,人間にとっては,災害防止や水産資源,レクリエーションの場の提供など多くの役割をもっている.特に,サケ化の魚類の生息・繁殖には水辺林の日射遮断による低水温の維持が必要である.また,氾濫原の農地利用にともなう水質汚染物質が河畔林帯を流れることにより除去されるなどフィルターとしての役割を果たしている.落葉広葉樹で形成されている水辺林は,葉の展開落葉を通して,景観形成だけでなく生態的機能の観点からも水辺の多様性に貢献している.

水辺林の保全再生には,現在残されている比較的自然度の高い水辺林を厳正保全し,これを核,モデルとして,質の低下した水辺林を修復・復元し,源流部から河口に至る水辺林の連続性を回復する必要がある.水辺林の再生については,その地域,立地環境に成立する植物群集の組成と構造を持ち,しかもそれが生態的に機能できるような水辺林を再生させて行かなければならない.このような水辺林を再生する上で重要なことは,その成立する『場』の扱いである.水辺林は,河川による自然攪乱や,それに結び着く生理生態的環境の下で成立する群集である.したがって水辺林の成立する環境が存在しなければ,自立的に更新を続ける水辺林は存続することはできないし,生態的な機能を果たすこともできない.

問合せ 屋久照葉樹林ネットワーク 事務局
mail:yattaneyoca@gmail.com  

 

 

 

Photo by じろう うちむろ